2012'05.29 (Tue)
暴君の最初の妻
チューダーズでは、とっても気の毒なヘンリー8世の最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンについて少々。

キャサリン・オブ・アラゴン
名前が示す通り、彼女はスペインのお姫様です。
両親はスペインの再統一を果たしたイザベル女王とフェルナンド2世の末娘で、当初ヘンリー8世の兄アーサー王太子の妃としてイギリスに輿入れしてきますが、アーサー王子が若くして死去、十代で未亡人となります。
本来なら実家のスペインに帰るところですが、舅のヘンリー7世が大国のスペインとの縁を逃したくなかったのと、キャサリンの持参金を返却したくなかったので、弟のヘンリーとの縁談を持ち出してきます。
この縁談は成立するのですが、ヘンリー7世は若い世間知らずのキャサリンを騙して、ヘンリーとの婚約を成立させています。
後々、離婚の理由にヘンリーが持ち出してくる「兄嫁を娶る」という当時のタブーをキャサリンに納得させるために、法王から特許状をもらったと言いくるめてしまっているのです。
そこまでしてキャサリンをイギリスに留めておいて、持参金の未納があるからと、キャサリンがスペインから連れてきた侍女を追い返したり、約束の年金を差し止めたりして、キャサリンを心理的にも経済的にも追い詰めます。
(ここらへんの仕打ちは、ヘンリー8世が離婚する際に同じことをしています。娘のメアリーに会わせなかったり、年金を停止したり。どこまで似てるんだ、この親子!!)
当然、婚約者のヘンリー王子にも会わせません。挙式なんて大反対。
あまつさえ、自分の王妃エリザベスが亡くなると、ヘンリー7世自身がキャサリンを後添えにしようとしたりして、かなり悪辣です。
そんなこんなで、若くしてかなり苦労したキャサリンですが、ヘンリー7世が死にヘンリー8世が即位して、法王からの特許状をもらって、合法的な結婚、王妃としての戴冠を果たします。
結婚当時のヘンリー8世はスポーツ万能の偉丈夫だったようですよ。
蓄財に長けたウルジー枢機卿、人文主義者トマス・モアの補佐も得て、治世もそれなりだったようです。
夫婦仲もそれなりだったようで、子供も出来るんですが、残念ながら育ったのがメアリー王女一人でした。
これに関しては、当時の乳幼児の死亡率が高いことと、ヘンリー8世が梅○病みだったらしいのが原因ですが、生き残ったのが王子だったら、後の教会制度をも巻き込んでのすったもんだはなかったでしょう。
でも、母親がイザベル女王であるスペインから輿入れしたキャサリンにしたら、跡継ぎがメアリー王女であっても何ら問題はないと思っていたはずです。

イザベル女王
しかし、ヘンリー8世は嫡出男子の継承に拘った。
弁護を多少しておくと、当時のチューダー朝の立場が微妙だったこともあります。
薔薇戦争という王位争いが終結してようやく成立したチューダー朝。ヘンリー7世がその一代目です。
ヘンリー7世には確かに王家の血は流れているのですが、その王家の血は王位継承権は否定された血筋なのです。
有態に言っちゃうと簒奪者? だから、王位継承権の補強のためにヨーク家のエリザベスを王妃にしています。

エリザベス王妃
でも、このエリザベス王妃もヨーク家の国王エドワード4世の娘は娘なのですが、母親のエリザベス・ウッドヴィルが「王妃になるには身分が低すぎ、愛人になるには誇りが高すぎる」女性で、エリザベスの王位継承権はかなり微妙なんです。
(ヘンリー7世は、このエリザベス母娘にも年金を出さないという仕打ちをしています。本当にケチ!!)

エリザベス・ウッドヴィル
そして、この時点でイギリス王家はウィリアム征服王以来、女王が立ったことがなかった。
フランスみたいにサリカ法があって女性の即位を否定しているわけではないのですが、ヘンリー1世の時代に娘のマティルダを女王にしようとして内乱になった(結局、マティルダの息子ヘンリー2世が即位)ことがあるので、メアリーを即位させるにはイギリスとしては不安があった。
だから、ヘンリー8世はチューダー朝を存続させるために、嫡出の男子がどうしても欲しかったわけです。
まあ、その願いも虚しく、せっかくの世継ぎエドワード6世は未婚のまま夭折(○毒胎内感染で病弱だった)、
メアリー1世はすったもんだで婚期を逸してフェリペ2世と結婚するも子供ができず、
エリザベス1世は処女王で未婚と、ヘンリー8世の子供の時代にチューダー朝は絶えてしまいます。
カトリック両王の末娘に生まれて、ハプスブルグ家のカール5世の叔母でありながら、人生の最初と最後に舅と夫に精神的に経済的に苦しめられるって、キャサリン・オブ・アラゴンって大変な人生を歩んだようです。
でも、廷臣、国民には敬虔な善良な王妃として慕われていたようで、彼女の亡骸がピーターバラの大聖堂に運ばれる時は、政府からの禁止令が出ていたにもかかわらず、国民が代わる代わる棺を担って運んだそうです。
故ダイアナ皇太子妃の「心の王妃」という呼称は、このキャサリンの呼称から由来しています。
kinkachoの思う、キャサリン・オブ・アラゴンの最良の日本語の参考文献は石井美樹子著「薔薇の冠」です。
是非ご一読ください。
小西章子著「スペイン女王イサベル」を併せて読むと、キャサリンが女子の王位継承者もアリだと考えた理由がわかります。

キャサリン・オブ・アラゴン
名前が示す通り、彼女はスペインのお姫様です。
両親はスペインの再統一を果たしたイザベル女王とフェルナンド2世の末娘で、当初ヘンリー8世の兄アーサー王太子の妃としてイギリスに輿入れしてきますが、アーサー王子が若くして死去、十代で未亡人となります。
本来なら実家のスペインに帰るところですが、舅のヘンリー7世が大国のスペインとの縁を逃したくなかったのと、キャサリンの持参金を返却したくなかったので、弟のヘンリーとの縁談を持ち出してきます。
この縁談は成立するのですが、ヘンリー7世は若い世間知らずのキャサリンを騙して、ヘンリーとの婚約を成立させています。
後々、離婚の理由にヘンリーが持ち出してくる「兄嫁を娶る」という当時のタブーをキャサリンに納得させるために、法王から特許状をもらったと言いくるめてしまっているのです。
そこまでしてキャサリンをイギリスに留めておいて、持参金の未納があるからと、キャサリンがスペインから連れてきた侍女を追い返したり、約束の年金を差し止めたりして、キャサリンを心理的にも経済的にも追い詰めます。
(ここらへんの仕打ちは、ヘンリー8世が離婚する際に同じことをしています。娘のメアリーに会わせなかったり、年金を停止したり。どこまで似てるんだ、この親子!!)
当然、婚約者のヘンリー王子にも会わせません。挙式なんて大反対。
あまつさえ、自分の王妃エリザベスが亡くなると、ヘンリー7世自身がキャサリンを後添えにしようとしたりして、かなり悪辣です。
そんなこんなで、若くしてかなり苦労したキャサリンですが、ヘンリー7世が死にヘンリー8世が即位して、法王からの特許状をもらって、合法的な結婚、王妃としての戴冠を果たします。
結婚当時のヘンリー8世はスポーツ万能の偉丈夫だったようですよ。
蓄財に長けたウルジー枢機卿、人文主義者トマス・モアの補佐も得て、治世もそれなりだったようです。
夫婦仲もそれなりだったようで、子供も出来るんですが、残念ながら育ったのがメアリー王女一人でした。
これに関しては、当時の乳幼児の死亡率が高いことと、ヘンリー8世が梅○病みだったらしいのが原因ですが、生き残ったのが王子だったら、後の教会制度をも巻き込んでのすったもんだはなかったでしょう。
でも、母親がイザベル女王であるスペインから輿入れしたキャサリンにしたら、跡継ぎがメアリー王女であっても何ら問題はないと思っていたはずです。

イザベル女王
しかし、ヘンリー8世は嫡出男子の継承に拘った。
弁護を多少しておくと、当時のチューダー朝の立場が微妙だったこともあります。
薔薇戦争という王位争いが終結してようやく成立したチューダー朝。ヘンリー7世がその一代目です。
ヘンリー7世には確かに王家の血は流れているのですが、その王家の血は王位継承権は否定された血筋なのです。
有態に言っちゃうと簒奪者? だから、王位継承権の補強のためにヨーク家のエリザベスを王妃にしています。

エリザベス王妃
でも、このエリザベス王妃もヨーク家の国王エドワード4世の娘は娘なのですが、母親のエリザベス・ウッドヴィルが「王妃になるには身分が低すぎ、愛人になるには誇りが高すぎる」女性で、エリザベスの王位継承権はかなり微妙なんです。
(ヘンリー7世は、このエリザベス母娘にも年金を出さないという仕打ちをしています。本当にケチ!!)

エリザベス・ウッドヴィル
そして、この時点でイギリス王家はウィリアム征服王以来、女王が立ったことがなかった。
フランスみたいにサリカ法があって女性の即位を否定しているわけではないのですが、ヘンリー1世の時代に娘のマティルダを女王にしようとして内乱になった(結局、マティルダの息子ヘンリー2世が即位)ことがあるので、メアリーを即位させるにはイギリスとしては不安があった。
だから、ヘンリー8世はチューダー朝を存続させるために、嫡出の男子がどうしても欲しかったわけです。
まあ、その願いも虚しく、せっかくの世継ぎエドワード6世は未婚のまま夭折(○毒胎内感染で病弱だった)、
メアリー1世はすったもんだで婚期を逸してフェリペ2世と結婚するも子供ができず、
エリザベス1世は処女王で未婚と、ヘンリー8世の子供の時代にチューダー朝は絶えてしまいます。
カトリック両王の末娘に生まれて、ハプスブルグ家のカール5世の叔母でありながら、人生の最初と最後に舅と夫に精神的に経済的に苦しめられるって、キャサリン・オブ・アラゴンって大変な人生を歩んだようです。
でも、廷臣、国民には敬虔な善良な王妃として慕われていたようで、彼女の亡骸がピーターバラの大聖堂に運ばれる時は、政府からの禁止令が出ていたにもかかわらず、国民が代わる代わる棺を担って運んだそうです。
故ダイアナ皇太子妃の「心の王妃」という呼称は、このキャサリンの呼称から由来しています。
kinkachoの思う、キャサリン・オブ・アラゴンの最良の日本語の参考文献は石井美樹子著「薔薇の冠」です。
是非ご一読ください。
小西章子著「スペイン女王イサベル」を併せて読むと、キャサリンが女子の王位継承者もアリだと考えた理由がわかります。
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ごみつ | 2012年05月29日(火) 22:01 | URL | コメント編集
ごみつさん、こんにちは。
イギリス王室に関しては趣味で勉強したので語る自信があります。
なんせアン・ブーリンの処刑現場にまで行ってますし、ハンプトンコートのホーンテッドギャラリー(ヘンリー8世の5番目の妻キャサリン・ハワードの幽霊が出る)にも行きました。
趣味なだけに好き勝手に勉強しました。
「大聖堂」も噂には聞いてます。それと「ボルシア」(?)も見たいですね。
イギリス王室に関しては趣味で勉強したので語る自信があります。
なんせアン・ブーリンの処刑現場にまで行ってますし、ハンプトンコートのホーンテッドギャラリー(ヘンリー8世の5番目の妻キャサリン・ハワードの幽霊が出る)にも行きました。
趣味なだけに好き勝手に勉強しました。
「大聖堂」も噂には聞いてます。それと「ボルシア」(?)も見たいですね。
kinkacho | 2012年05月29日(火) 23:37 | URL | コメント編集
お久しぶりです。
最近は残雪の蝶常念に行きました。最高でした。
最近映画エリザベスのDVDを見たところなので、丁度興味があった所で、いろいろ本を眺めてる所です。
薔薇の冠、今度探してみます。
最近は残雪の蝶常念に行きました。最高でした。
最近映画エリザベスのDVDを見たところなので、丁度興味があった所で、いろいろ本を眺めてる所です。
薔薇の冠、今度探してみます。
きんちゃく | 2012年06月10日(日) 00:38 | URL | コメント編集
きんちゃくさん、こんにちは。
14日に再入院が決まり、15日にワイヤ抜去手術です。7月には身軽な身に復帰したいです。
「薔薇の冠」「イザベル女王」で女系で王家を追ってみてください。面白いです。
14日に再入院が決まり、15日にワイヤ抜去手術です。7月には身軽な身に復帰したいです。
「薔薇の冠」「イザベル女王」で女系で王家を追ってみてください。面白いです。
kinkacho | 2012年06月10日(日) 01:01 | URL | コメント編集
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この記事、凄いですね!ものすごく勉強になります。
肖像画つきだし、とってもわかりやすい。
ドラマ「チューダーズ」を見る時にもとっても参考になりそうです。Kinkachoさん、まとめ有難う。
ケン・フォレット原作のドラマ「大聖堂」も面白そうなんですよね。歴史ドラマって楽しいですね。